違いがあることが自然な世界をみたいから
一般社団法人ビーンズ 管理者・精神保健福祉士
土居 奈月
クラフトビールを通して、福祉の入口を作る。私のこれからの挑戦
キャリア
土居 奈月
新卒でNPO法人の就労継続支援B型事業所に勤務 ↓ 2021年に精神保健福祉士の資格を取得 ↓ 2023年2月に一般社団法人ビーンズに入職 ↓ 2024年から、方南ローカルグッドブリュワーズにて管理者を担う
1違いはあるけど、みんな一緒。それが“当たり前”の小中高時代
福祉職になろうと思ったきっかけは、小中高の環境が大きく影響しています。私が通っていた学校には知的障害のある生徒やハンディキャップを持つ生徒のための分校があり、同じ学年の同級生として一緒に過ごす環境が、私にとっての“ふつう”で、“当たり前”でした。発達進度が異なるため同じ教室で授業を受けることはなかったものの、図書館や体育館など共用部を一緒に使ったり、学校行事を一緒になって作り上げたり、授業以外の場面で過ごす機会がたくさんありました。隣にいるのがたまたま知的障害のある友達、という感覚でした。
1つ、今でも覚えている印象的な思い出があります。それは、高校生のときのスポーツ大会のこと。クラス対抗のバスケットボールの試合で、私たちのクラスも必死で食らいつくほど分校のクラスがとにかく強くて強くて。勝敗は覚えていないのですが、決められたバスケットボールのルールの中で、障害の有無に関わらずみんなが同じように戦う。その光景を見て、健常者だから、障がいがあるから、と分けることなく人として誰もが溶け合っている環境が自然でした。
2利用者の本質を決めつけずに、一緒に見つけに行く仕事
中学生のときには漠然と「福祉の仕事に就きたいな」と思い始め、高校3年生で訪れた大学のオープンキャンパスで「精神保健福祉士」のことを知りました。精神保健福祉士とは、精神上の障害がある人や、その家族の人から相談を受け、よりよい日常生活を送れるようにサポートすることが仕事です。もともと人と話すことが好きで、友達から相談を受けることも多かった私は「自分に合っているかもしれない」と感じ、精神保健福祉士になろうと決めました。
8年が経った今は、この選択が間違っていなかったと胸を張って言えます。私は、利用者と会話を通して、どんな状態なのか、何に悩んでいてどうしたいのか、今何ができるのか、本人も気がついていない本質的な箇所を一緒に見つけていく過程にやりがいを感じます。もちろん答えがない場合やどうしたいかが定まっていない、ただ話を聞いてほしいだけの場合もあります。そのときはそれで全く問題なく、話していく中で1つでも気づきが得られればそれでいいと私は思っています。
答えの有無、方向性の決定がなくとも、「話せただけでスッキリした」ということは、それだけでその時間に意味があったということ。利用者の言葉を掘り下げ、どこに本人の気づきや納得感、核があるのかをゆっくり探していく。利用者の一歩をサポートができるのが、この仕事の醍醐味です。
3いち商品として、味もラベルもこだわったクラフトビール
現在、東京都杉並区にある方南ローカルグッドブリュワーズで管理者をしています。ここは、一般社団法人ビーンズと方南銀座商店街、NPO法人が協働して立ち上げた、精神障害のある人が醸造士として活躍するクラフトビールの醸造所です。方南ローカルグッドブリュワーズと出会ったとき、私は一度福祉職を離れようと考えていました。違う角度からこの仕事を見てみたいと思い、他業界での転職活動をしていた際、たまたま「福祉×クラフトビール」の文字を見つけました。私自身、大のお酒好きで興味が湧き、決め手となったのは方南銀座商店街が携わり、社会の一部として福祉事業所があることでした。小中高で培った「みんな一緒に同じ日常を過ごす」という私の“ふつう”を体現していると感じたのです。
管理者として、日々働く環境を整えることが私の仕事です。対利用者へ月に1回の面談、作業のサポート、勤務時間の管理を行い、対支援者へフォローアップ、シフト管理、困っていること等のヒアリングを行っています。また、ビールの卸しも行っているため、在庫管理、発注処理、発送作業もしています。
方南ローカルグッドブリュワーズは、醸造士のプロにビアアドバイザーとして参画してもらい、味にこだわりのある5種類のクラフトビールを販売しています。プロにデザインしてもらったラベルを貼付し、見た目にも抜かりない商品を作りました。
そのおかげで、購入後に福祉事業所で醸造していたことを知るお客様も多くいます。たまたま手に取った商品に福祉が関わっていた、ただそれだけ。「福祉」「福祉じゃない」のフィルターなしでビールを届けられることが、何よりも嬉しいです。
4クラフトビールが架け橋に。多面的な福祉の魅力を発信する
福祉職になってから「何の仕事をしているの?」と聞かれ、「福祉職です」と答えると大抵返ってくる返事は、「大変そう」であることがほとんどです。福祉・介護=大変そうというイメージがかなりこびりついていることを感じるたび、私は一般社団法人ビーンズが掲げる「人々の認識を変える新たなサービスをつくる」という理念を再認識します。
福祉・介護に限らず、どんな仕事でも大変なことや辛いことはありますが、この仕事は「お世話する」「お手伝いする」という先入観が固定化されてしまい、それ以外の仕事内容が想像しづらい現状があります。ビールという誰もが楽しめるアイテムを架け橋にして福祉への入口を作り、「大変そう」以外の面を伝えられたらと思っています。
私自身はこれから、対支援者の支援にも注力していきたいと思っています。福祉は、支援者がいてこそ成り立つ業界です。ですが、自分自身のケアが苦手で、おざなりにしてしまう人が案外多いことも実感値としてあります。自分のケアが上手くいかない人が、人のケアをするのはやっぱり難しい。利用者、支援者関わらず、「元気です」と言ってくれた言葉自体は受け止めつつ、その言葉の裏にある背景や気持ちを良い意味で疑うことを心がけています。言語コミュニケーションに加え、ちょっとした表情や態度、姿勢などの非言語コミュニケーションにも気を配り、言葉にはしないけど言っていることを掬いあげることで、利用者はもちろん、支援者が健やかに働き続けられる環境を作っていきたいと思っています。