自分に向き合う機会が多く成長できるから

特定非営利活動法人Startline.net 訪問介護事業所 代表

佐藤 悠祐

消去法で介護職を選んだ私が、訪問介護事業の経営者になった理由

キャリア

佐藤 悠祐

彰栄保育福祉専門学校 介護福祉科を卒業 ↓ 新卒で特別養護老人ホームに勤務 ↓ 2回の転職後、フリーターとして他職種を経験 ↓ 訪問介護事業所を立ち上げ、運営

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「介護職でいいや」という気持ちで専門学校へ

私が介護職を目指したのは、ポジティブな理由とそうでない理由がひとつずつあります。
 
ポジティブな理由は、高齢者のコミュニティに慣れていたこと。幼少期から共働きで忙しい両親の代わりに、祖父母に面倒を見てもらっていました。祖父母の知り合いがいる中で遊ぶことも多く、足腰が弱くなった近所のおじいちゃんの手伝いを任されたこともありました。振り返ってみると、私にとって介護の原体験だったように思います。
 
一方で、消去法で介護職を選んだ面もあります。私は女性として生まれましたが、成長するにつれて周りとの「違い」を感じていました。性別不合を自覚してからは、「性別を変える」ことを常に選択肢として持つようになっていたんです。15年前はLGBTQ+という言葉も知られておらず、マイノリティに対する社会の理解がない状態。介護職なら性別が変わっても専門職として働いていけるだろうと考え、高校卒業後に介護の専門学校に進学しました。
 

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正職員からフリーターへ。介護を見つめ直す経験に

前向きでない進路選択でしたが、少しずつ介護という分野に意義を見出せるようになりました。
 
私にとって大きかったのは、特別養護老人ホーム「芦花ホーム」で実習を受けたこと。「介護とは、利用者が困っていることを極力やってあげること」だとイメージしていましたが、メンターの職員に、「それは何のためにやるの?」「どんな効果が得られるの?」といったことを何度も問われました。私が知らなかったこと、深く考えていなかったことを見つめ直す機会になりましたね。実習生でなく、ひとりの介護人材として育ててもらったと感謝しています。
 
その後、正職員として特別養護老人ホームや訪問介護事業所で働きました。順調にキャリアを積んでいきましたが、あるとき「正職員として働くのはやめよう」とフリーターになる決意をしました。大学に進学した同級生を見渡すと、仕事以外にも色々な経験を積んでいる。一方で私には介護職として働いた経験しかなく、もっと自分の可能性に目を向けようと考えたんです。
 
ただ介護職から完全に離れたのではなく、週3日ほどパートタイマーとして勤務を続けました。その傍ら、飲食業のスタッフや企業・学校での事務職、警備員などのアルバイトに挑戦。様々なことをやってみることで、介護業界を俯瞰して眺めることができるようになったと思います。
 

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訪問介護は、介護の入り口になり得る

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28歳のときに性別を変え、同時に訪問介護事業所「SAISON」の事業立ち上げを行いました。「誰もが自分らしく生きることを選択できる社会」を理念に掲げ、重度障害や難病を抱えた利用者の暮らしをサポートしています。入浴・食事介助に加え、食事を作ったり一緒に外出したりと、24時間対応でケアが必要な方への訪問を行っています。
 
事業を立ち上げたのは、訪問介護の魅力を発信したかったから。現代において介護は必要不可欠な仕事ですが、訪問介護は「誰にでもできる仕事」という偏見があるように感じています。個別対応を柔軟に行い、利用者の自宅における自立支援を促すことが私たちの役割です。訪問介護はいわば介護の入り口なので、多くの方は介護に関する知識やリソースを持っていません。最初の介護に関わる存在=ホームヘルパー(訪問介護員)として、専門性の高い仕事をしていることをアピールしていきたいと考えています。
 

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介護は誰もが関わる価値のある仕事

デジタル化の恩恵もあり、ここ数年の間に、介護現場の働き方も大きく変わってきました。ただ利用者と直接関わる仕事ですので、知らず知らずストレスを溜めることもあるでしょう。私たちの事業所でも、職員が気持ち良く働いてもらえる環境整備に努めています。
 
東京都の取り組みでありがたいのは、介護職員宿舎借り上げ支援事業です。ひとりあたり月82,000円を基準とした住宅補助があり、さらに追加で始まったひとりあたり最大2万円の居住支援特別手当も申請中です。災害時の対応も含め、仕事に取り組みやすい環境を東京都に支援してもらっている実感があります。
 
介護職の魅力は、自分自身を知ることができる点にあります。利用者だけでなく、自分自身と向き合うことが多く、「私はこんな考えを持っていたのか」「こんなことが強みだったんだ」と、自らの内側に対する発見ができる仕事なんです。そういった発見の中で、どのように自分の得意/不得意を仕事に活かしていくかを考えるのは、とてもクリエイティブな行為だと私は確信しています。
 
介護に少しでも興味を持っていただけたら、「片足を突っ込む」ような感覚で、介護現場に来てもらいたいですね。必ずしも、フルタイムで働く必要はないと思います。ちょっと介護を覗いてみるような感覚も全然OK。介護は多様な働き方を歓迎する、誰もが関わる価値のある仕事です。あなたなりの関わり方で、ぜひ介護に携わってみてください。
 

与えるよりも「もらうもの」の方が多い仕事だから。

SOMPOケア株式会社 介護福祉士

中澤 真希

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