まずは会社の紹介と自己紹介をお願いします。
株式会社moreは、東京都世田谷区に拠点を置く地域密着型の介護サービス企業です。2012年の創業以来、「感動を届ける」「社員の成長」「地域への貢献」の3つの理念を大切にしながら、デイサービス・訪問介護・訪問看護などを展開しています。現在は世田谷区内で10以上の事業所を運営し、ご利用者様のニーズに寄り添ったサービスを提供しています。
moreでは、創業当初から「働きやすい職場づくり」を重視しています。スタッフ同士の笑顔があふれる職場で、安心して成長できる環境づくりに取り組んでいます。
私は介護業界で働き始めて16年目になります。前職ではmore代表の倉田と同じ会社に勤めており、「一緒に良い会社をつくろう」と声をかけてもらったことがきっかけで入社しました。現在はH&Cブランドマネジメント部のマネージャーとして、働きやすい職場づくりに力を入れています。
また、子会社「株式会社more connect」の代表も務めています。採用・労務・企画・助成金コンサルティングなど、人事に関する幅広い業務を通じて、現場を支える仕組みづくりにも取り組んでいます。more connectでは、介護資格の取得ができる学校「MORE ACADEMY」も運営しております。
取材当日、机の上には「本日は暑い中お越しいただきありがとうございます!精一杯ご質問にお答えします」と書かれた手紙が、会社の資料とともに置かれていた。帰り際には、看板にもメッセージが添えられていた。
moreでは、来社された方へのおもてなしの気持ちを込めて、毎回スタッフが手書きでメッセージを用意しているとのこと。
宣言事業に参加されたきっかけについて教えてください。
求人広告などの採用に関わるコスト負担や採用活動におけるコストパフォーマンスを考えたときに、この事業に参加することでコストをかけずに求職者にアピールできる活動になるなと考えたことが大きかったと思います。まずは、表に出て、求職者の方に見つけてもらえたら、というところからスタートしたことがきっかけです。
働きやすい職場づくりのために、具体的にはどんなことをされたのでしょうか。
働きやすさは、もともと会社として大切にしている考え方です。資格取得支援制度や引っ越し支度金制度などさまざまな制度もいろいろ整えていますが、それ以上に、働きやすい文化が根付いているかどうかが重要だと思っています。
組織が大きくなると、社長の思いが現場に届くまでに薄まってしまうことがあります。制度をつくって「はい、あとはよろしく」ではなく、経営陣が現場に目を向け、柔軟に対応しながら制度も必要に応じて見直していく。その姿勢を持ち続けることが大切だと考えています。
制度は一度で完成するものではありません。必要なときにきちんと変えていくこと、それを続ける姿勢が大事です。宣言事業への参加を通じて、そうした姿勢を外部に発信できたのも良かったと思っています。
社長や社内スタッフからのおすすめされた本や、仕事に役立つ本がたくさんそろっているmore図書室。気になる本があれば、希望のタイトルを紙に書いてボックスに入れておくと、会社で購入してもらえる可能性も。
制度面の働きやすい職場づくりの為の取り組みもたくさんありますよね。ぜひ教えてください。
「スイッチオフデー」があります。簡単に言うと、ノー残業デーです。19時までには業務終了しましょうという日を設けています。
また、「ビジネスエチケット」として、夜8時から朝7時までは緊急時を除き連絡を控えるルールを設けています。明日でいいことは、無理せず明日に回すようにしています。
福利厚生では、家賃補助や引っ越し費用の補助、保育園の利用料金補助など、さまざまな制度を整えており、みなさんが働きやすいように全面的にバックアップしています。
スタッフの皆さんが安心して働くための、会社のフォロー体制や研修についてはいかがでしょうか?
スタッフのみなさんの心理的安全性を高めるために、1on1面談※1とD&I研修※2を実施しています。1on1面談は月1回行っており、「今の働き方で困っていることはないか」「どんな未来を描きたいか」といったテーマで対話を重ねています。ラフな話から始めて、評価制度に沿った振り返りをしたり、サイコロでテーマを決めて話すこともあります。
面談を通じて、上長や経営陣がスタッフ一人ひとりに関心を持ち、状況を把握することを目指しています。短時間でも回数を重ねることで、スタッフとの信頼関係を築き、会社の方針や意図を伝える機会にもなっています。D&I研修は管理職向けにしっかりとしたプログラムを用意し、心理的安全性の向上に取り組んでいます。
あおの窓口というポスターを見かけたのですが?
面談以外にも、いつでも相談できる窓口を設けています。「あおの窓口」と呼んでいて、JRの「みどりの窓口」にちなんだ名前です(笑)。どんなことでも、いつでも気軽に相談できる窓口で、私が担当しています。入社時に配布する資料でもしっかり案内しています。
相談内容はさまざまで、たとえば「給与振込の口座を変えたい」「有給休暇の残日数や有効期限を確認したい」といった細かいこともあります。
ダイバーシティに関する相談もあります。LGBTQ+当事者のスタッフから、「カミングアウトはしていないが、職場で『彼女(彼氏)はいるの?』と聞かれて困っている」といった声も寄せられています。
相談内容は本人の同意なしに他者に伝えることはなく、安心して話せる環境を整えています。こうした取り組みが信頼関係につながり、社内のセーフティネットとして機能しています。特にLGBTQ+の方にとっては、カミングアウトする・しないに関わらず、安心して働ける職場になっていると感じています。
「moreは本当に働きやすい」「ここでは自分らしく働ける」「ようやく自分らしく働ける場所に出会えた」「今までの会社と違って、ここにいることが幸せ」といった声をいただくこともあり、大きな励みになっています。前職で受け入れてもらえなかった方や、自分を出せなかった方がそう言ってくれるのは、特に嬉しいですね。スタッフがご利用者様の気持ちに寄り添った支援を行うためにもまずはスタッフ自身が安心できる環境であることが大切だと思っています。
各事業所でスタッフからよく見える場所に掲載されている。
キャリアアップ制度についても伺いたいのですが。この辺はどう対応されていますか?
moreでは「枠に人を当てはめる」のではなく、「人から枠をつくる」という考え方を大切にしています。その人の得意なことや輝いている部分を活かせるよう、オリジナルの役割をつくることもあります。
たとえば「ファイントレーナー」という職位があります。周囲を元気にする力があるスタッフがいて、その存在が現場を明るくするので、才能として役割をつくり、名前をつけて任せています。
スタッフがそれぞれのキャリアを自由に描けるよう、会社としても柔軟に対応しています。すべての人に合う制度を最初から用意することは難しいので、「こんなことをしてみたい」という声に応じて、一緒に仕組みをつくるようにしています。「キャリアの選択肢は多様でいい」と実感できる環境づくりを目指しています。
役職だけでなく、プロジェクト形式で挑戦の場をつくることも重視しています。これを行うためには、経営陣や上司がスタッフ一人ひとりに関心を持ち続けることが前提となります。たとえば冊子をつくる際に、「あの人は絵が得意だったな」と気づけるかどうか。日々の対話から得意なことを見つけ、活躍の場をつくるようにしています。
スタッフが会社全体を把握するのは難しいので、会社側が人と人、人と仕事をつなげる役割を担うことが大切だと考えています。それぞれのスタッフの能力を活かすキャリア支援ができるかどうかは、経営層の姿勢次第だと思っています。
また、独立支援制度があるので、私も実際に使いました。最初から起業までいかずとも、まずはプロジェクトに参加してもらって経験を積むということも可能です。
新卒の方のプロジェクトもあると伺いました。どんなプロジェクトをされているのですか?
昨年度は「moreのファンを増やす」をテーマに、新卒社員7人が自主的に会社のパンフレットを企画・制作しました。小説仕立てで始まる冊子で、デイサービスと訪問介護の2つの視点が最後に交わる構成になっています。本が好きなメンバーが多く、描写も細かく、それぞれの性格が物語に表れていて、読んでいると「こんなことで悩んでいたんだな」と気づかされる内容でした。
若手にプロジェクトを任せることも、キャリア支援の一環だと考えています。介護職だからといって、やりたいことが介護に直接関係していなければいけないとは思っていません。やってみたいことや表現したいことがあれば、それを会社が支援するのが理想だと考えています。もちろん、手を挙げた人には責任を持って取り組んでもらいます。
今年の新卒社員は、近隣の高校や中学校で介護の魅力を伝える授業を企画しています。まだ企画段階ですが、実習などで地域とつながりのある学校を対象に、自分たちでプロジェクトを立ち上げています。これも本人たちの発案で、「それならやってみよう!」という流れでスタートしました。
MORE ACADEMYという取り組みも興味深いですが、これはどんなものですか?
子会社として、初任者研修の資格取得ができる学校「MORE ACADEMY」を運営しています。受講生はもちろん、講師もほとんどがmoreのスタッフです。講師としてキャリアを積みたい、経験してみたいというスタッフに対しては、講師テスト合格を得て担当してもらっています。定期的に研修を実施しています。
スタッフが気持ちに寄り添った支援を行うためにも、まずはスタッフ自身が安心できる職場環境を心掛けている。
今から介護の仕事をしたい方に向けて御社の魅力を伝えるとしたらどんなことがありますか?
moreには、ご利用者様にもスタッフにも「らしさ」を尊重する文化があります。これまでの経験や背景を否定せず、その人が輝ける場を会社が引き出し、提供することを大切にしています。
新しく入社される方の中には、自分に自信がなかったり、「自分なんて」と思っている方も多くいます。でも、そうした方の経験や視点が、ここでは必ず役に立ちます。前職でうまくいかなかった経験がある方もいますが、そういう方ほど人に優しく、思いやりを持って働けるんです。
「コミュニケーションが得意」というより、「人のために何かしたい」という気持ちで入社される方が多く、実際に働く中で少しずつ変化していく姿を見るのがとても嬉しいです。最初は「全然ダメです」と言っていた方が、1〜2カ月後にはご利用者様としっかりコミュニケーションを取れるようになっていることもあります。
また、moreには「褒め合う文化」があります。入社直後の研修や、moreの大切にしている理念を、どのように体現するか、しているかをお互いに共有し合う研修機会を設けています。40代・50代で入社された方から「大人になって、こんなに褒められることはなかった」と言われることもあり、スタッフ同士が前向きな関係を築ける環境です。
最後に、働きやすい職場づくりで一番大切なことを教えてください。
「働きやすい職場づくり」と聞くと、制度や環境の整備に目が向きがちですが、本当に大切なのは、対話を続けることだと思います。スタッフの声に耳を傾け、「今どんな気持ちで働いているか」「これからどうありたいか」を一緒に考えること。制度が整っていなくても、まずはその声を聴く姿勢があるだけで、働きやすさは大きく変わります。
私たちもまだ道半ばですが、「あなたはどうしたい?」と問いかける日々の積み重ねが、風土をつくり、働きやすさを支えてくれると実感しています。まずは目の前の声に丁寧に、興味関心を持って向き合うことから、はじめてみてはいかがでしょうか。
外観はまるでカフェのよう。ご利用者様やスタッフが毎日通いたくなるような心地よい雰囲気の事業所。