まずは法人の概要について教えてください。
当法人は、戦後、戦争によって親を失った「引き揚げ孤児」などの生活支援を目的として設立され、まもなく創立80周年を迎えます。
現在は八王子市を拠点に、児童養護施設「こどものうち八栄寮」、母子生活支援施設「リフレここのえ」、子供家庭サービス事業(ショートステイ・トワイライトステイ)、子育て応援事業など、児童福祉を中心とした多様な事業を展開しています。
「こどものうち八栄寮」は、約4,000坪の自然に囲まれた環境の中で、「こどもと共に生活し、共に歩み、未来へ生きる」という理念を大切にしています。少人数での生活を通じて安心できる関係づくりを重視し、子供たちの成長を見守るだけでなく、退所後も途切れることのない支援を続けています。
馬渕さんについても自己紹介をお願いいたします。
私は新卒で当法人に入職し、5年間は児童養護施設でケアワーカーとして子供たちと生活を共にしてきました。その後は事務職に異動し、人事労務全般を担当。職員が安心して長く働ける環境づくりにも力を入れています。
現在は事務職4年目で、今年度から母子生活支援施設に異動し、会計業務にも挑戦中です。経理は未経験で戸惑うこともありますが、いろいろな業務にチャレンジできるところが、この法人の大きな魅力です。
児童分野の多様な事業に関わることで視野が広がり、児童福祉を深く学べる環境だと感じています。
大学では法学部に所属しており、福祉とは無縁の分野でしたが、社会保障法のゼミに参加したことがきっかけで福祉に関心を持つようになり「自分がやりたいのは、目の前の人の支援だ」と実感するようになりました。その思いから、大学卒業後に社会福祉士取得のための専門学校に進学し、資格を取得。児童分野に関心を持ち、就職活動の中でこの法人と出会いました。未来の社会をつくる子供たちの成長を支える仕事に携わりたいと思い、入職を決めました。
戦後、家族を失った子供たちに寄り添い続けてきた同法人。設立当初から児童福祉に専念し、現在では培ってきた子育てのノウハウを生かし、地域支援にも力を入れている。
宣言事業に参加された背景・理由について教えてください。
人材不足の状況が続き「働きやすさ」について改めて考えるようになりました。児童養護施設は24時間体制で支援を行っているため、どうしても職員の働き方が不規則になりがちです。仕事のやりがいはあるものの、働く環境には課題も多く、まずはその改善に取り組む必要があると感じました。
また、職員が退職したり、新たな人材の採用が難しくなったりする中で、「担い手がいなくなることで、誰が一番困るのか」と考えたとき、それは施設で暮らす子供たちや、利用されているお母さんたちではないかと思いに至りました。より良い支援のためにも働きやすい職場作りが必要だという認識のもと、できることから取組を始めました。
申請時は何から始めればよいか分からず不安もありましたが、事業者支援コーディネーター制度を活用することで、現在の法人リソースでできることを整理し、少しの工夫で達成できる項目などを具体的に提案していただき、申請に踏み切ることができました。
達成率そのものよりも、「働きやすい職場づくりに取り組んでいる」という姿勢を示すことが大切だと考えています。宣言を通じて法人としての方向性を整理することができ、今後の目標設定にもつながる良い機会となりました。
宣言後、どのような変化や効果がありましたか?
宣言を取得したことで、採用活動でのアピールがしやすくなり、福利厚生などの制度の説明にも説得力が増しました。宣言マークがあることで、求職者に安心感を持ってもらえるのも大きなメリットです。
職員からも前向きな声が増え「制度が整ってきてありがたい」「もっといろいろやってほしい」といった反応がありました。「働きやすい職場づくり、がんばってね!」と声をかけてもらったこともあり、担当者として励みになっています。
宣言をきっかけに、職員の意識が変わり、法人全体でも働きやすさへの取組が進みました。職員の間でも、働きやすさに関する要望が口にしやすくなったと感じています。現場の声が届きやすくなったことも、大きな変化だと思います。
子供たちが思いっきり走り回れる、とても広々としたグラウンド。大人も子供たちと一緒に本気で遊ぶことで、信頼関係が築かれていく。
インターンシップ制度の導入について教えてください。
社会的養護の分野では、事業所が子供たちの「家庭」であるという性質上、インターンシップを実施している事業所が少ないのが現状ですが、就職活動では「体験してから選ぶ」流れが一般的になっています。求職者に安心して選んでいただくため、当法人ではインターンシップ制度を導入しました。
職員や子供たちの雰囲気を事前に知ってもらうことで、ミスマッチを防ぎ、早期離職のリスクを減らすことが目的です。年間20名ほどが参加し、就職につながるケースも複数あります。
学生だけでなく既卒の方も受け入れているため、中途採用のケースもよくあります。また、採用説明会の後に「まずはインターンシップからどうですか」と案内することで、採用活動におけるアプローチの幅も広がりました。いきなり試験を行うのではなく、インターンシップを挟むことで安心して一歩踏み出してもらえるようになっています。
インターンシップ後のフォローも大切にしており、就職活動中の方には採用試験の案内を定期的に送ったり、大学2〜3年生など、卒業までに時間がある方には行事のボランティアやアルバイトにつなげるなど、関係を継続しています。子供と直接関わる機会が多いことも、参加者のモチベーションにつながっていると感じています。
資格取得支援制度の導入について教えてください。
この制度は、採用活動で求職者から「資格支援制度はありますか?」と頻繁に聞かれるようになったことをきっかけに、採用担当が上層部に提案し、導入した制度です。
対象資格は保育士、社会福祉士、精神保健福祉士など福祉分野で活かせるものが中心で、心理系資格にも対応しています。制度内容は、試験日に取得できる「特別休暇(有給として扱う)」の付与と、資格取得後の「お祝い金」の支給です。
手厚い制度ではありませんが、職員の成長やキャリアアップを法人が応援しているというメッセージが伝わることが何よりも大切だと感じています。
休暇の取りやすさに関する取組についてはどんな工夫をされていますか?
これまで介護休暇や看護休暇は「無給」で使いづらい状況でしたが、当法人では思い切って「有給」に変更しました。子育てや介護を担う職員が安心して働ける環境づくりにつながり、非常に評判の良い制度です。
また、夏季・冬季休暇を廃止し、年間を通じて自由に取得できる「リフレッシュ休暇」に変更。年間休日数はそのままに、取得の自由度を高めたことで「自分のペースで休める」と好評です。
非正規職員にも制度を適用し、労働時間に応じて休暇日数を柔軟に調整しています。シフト調整は必要ですが、「取りやすい環境」を整えることで、職員の満足度や定着率にも良い影響が出ています。
働きやすい職場づくりにおいて、課題や苦労している点はありますか?
課題は本当に多くあります。特に当法人は中小規模の事業所なので、採用や制度面で大規模法人のような対応が難しい部分があります。休暇制度などももっと充実させたい気持ちはありますが、予算や人員の都合で限界があるのが現状です。
一番の悩みは、「サービスの質を落とさずに、働きやすさをどう両立させるか」という点です。休みを増やせば職員の負担は軽くなりますが、子供たちと関わる時間が減ってしまう可能性もあり、支援の質を保つためのバランスが非常に難しいと感じています。
そのためには、やはり人員確保が重要です。余剰人員を確保するには、福祉分野への補助金・助成金の拡充をぜひお願いしたいところです。
また、新しい制度を導入する際には、長く働いてきた職員への配慮も欠かせません。若手職員だけが優遇されていると見られないよう、ベテラン職員にもメリットがある制度設計を心がけています。
施設の魅力、仕事の楽しさや大変なことを教えてください。
当施設の魅力は、自然豊かな環境です。広い敷地と緑に囲まれた場所で、子供たちの養育にも良い条件が整っています。施設内には6つの「おうち」があり、職員は子供たちと食卓を囲みながら、日々の生活を共にしています。
イベントの準備や季節の行事など、子供たちと一緒に楽しめることも多く、他の職場では味わえない喜びがあります。関わる中で、温かい気持ちや楽しい気持ちになれる瞬間がたくさんあります。
子供たちの成長を間近で見守れるのも、この仕事の大きな魅力です。中学3年生の子と一緒に高校受験を乗り越え、就職まで伴走した経験は今でも忘れられません。私は子供たちに「まー君」という愛称で呼ばれているのですが、その子が「まー君がいなかったら受験も就職もできなかった」と言ってくれたとき、4年間の支援が報われたと心から感じました。もちろん、大変なこともあります。子供たちはそれぞれ複雑な背景を抱えており、安心できる集団生活を提供するのは簡単ではありません。子供たちが過ごす中で様々なトラブルが起こることはありますが、暴力は絶対に許さないという姿勢を貫いており、職員が信頼される存在であることが求められます。
職場の人間関係は良好で、私自身も入職以来悩んだことはありません。常に2人勤務体制をとっているため、安心して働けます。また調理スタッフの配置など、支援に集中できる環境が整っており、プライベートも大切にできる職場です。
子供たちとの思い出やエピソードを、本当に楽しそうに話してくれた馬渕さん。優しい笑顔からは、子供たちへの深い思いがあふれていた。
施設として大切にしていることを教えてください。
私たちの施設では、子供たちが「自立して幸せになること」をゴールに据え、職員がそのために全力で支援しています。掃除や洗濯、食事などの日常の家事も、子供たちの生活環境を整える大切な支援のひとつです。職員がその姿を見せることで、子供たちが安心して成長できる環境をつくっています。
また、愛着関係(※)を築くこともとても大切にしています。同じ職員が長くそばにいることで、子供たちの心の安定につながると信じています。そのためにも、職員が安心して働き続けられる「働きやすい職場づくり」は欠かせないと考えています。
※愛着関係:乳幼児期に形成される、子供と特定の養育者との間の情緒的な結びつきのこと。
明るく清潔なエントランスをはじめ、施設のすみずみまで丁寧に整えられていた。みんなが心地よく過ごせるよう、日々の掃除や整理整頓を大切にしている。
最後に未宣言事業所へのメッセージをお願いします。
働きやすい福祉の職場宣言は、「達成していること」だけでなく、まずは「やろうとしている姿勢」を示すことが大切だと思っています。私たちも未達成の項目がある中で宣言事業に参加しましたが、職員から職場づくりへの声が上がるようになり、「働きやすい職場づくり、がんばってね!」と応援してもらえるようになりました。
お金をかけなくてもできることはたくさんあります。同じような悩みを抱えている事業所の皆さんにも、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。
今日も元気に子供たちが自然いっぱいの坂を上って「こどものうち」に帰ってくる。
