定年退職後に飛び込んだ福祉の現場—シニア世代の挑戦記

粟野 千晴さん

写真:粟野さん

生活支援員(Linkキャリアサポートセンター)

70歳の粟野さんは、営業職で28年働いた後、特例子会社(注)で13年間、障害のある方の指導員として活躍してきました。65歳で定年退職を迎えた後、コロナ禍で時間ができたことをきっかけに、福祉の現場での新しい挑戦をスタート。現在は生活支援員として、ご利用者様の体調管理や生活習慣改善、ビジネススキルの訓練プログラムの運営まで幅広く携わっています。
かつては「責任感」を重視して指導していた粟野さんが、今は「安心感」を届ける支援員として活躍。年齢を重ねてもなお、新しい環境で成長し続ける姿から、シニア世代の挑戦のヒントが見えてきます。

(注)特例子会社とは:障害のある方が働きやすいように企業が設立した子会社です。グループ全体で障害者雇用を進めることができる仕組みとして、多くの企業が取り組んでいます。

特例子会社の喫茶部門で指導員として勤務

13年間、特例子会社の喫茶部門にて障害のある方の指導員として働いていた粟野さん。「指導員として、障害のある職員の皆さんにお客様対応や気配り、声がけの方法などを指導していて、仕事は厳しく、体力も精神力も成果も求められる日々でした」と振り返ります。
会社内でいかにプロとして活躍できるかが重視される中、粟野さんが指導に関わったチームは、アビリンピック(注)の地方大会で金・銀・銅賞を獲得。全国大会にも出場するなど、大きな成果を挙げました。
「この頃はがむしゃらに頑張っていて、成果を挙げられたことは私の誇りでもありました」と語ります。しかし、65歳で定年を迎え、一度は現場を離れることになりました。
(注)障害を持つ方が日頃培った技能を互いに競い合い、その職業能力の向上を図ることが目的の大会

福祉の仕事について笑顔で語る粟野さん

時間をきっかけに、新しい挑戦へ

定年退職後、ちょうどコロナ禍でもあり時間ができたことを機に、時間稼ぎも兼ねて粟野さんはハローワークに通います。「この時はまだ仕事を探そうという気持ちは正直あまりなかったけれど、ハローワークもコロナ禍でがらがら。一日中パソコンを触っていましたね」と笑います。
そんなある日、目に留まった求人票が、障害のある方の就労移行支援を行う職場「Linkキャリアサポートセンター」でした。「求人票を見たとき、直感で『ここならやってみたい』と思いました。私の以前のキャリアも役に立つかもしれないと感じて」、面接と見学、業務体験を経て就職が決まりました。

転職して5年。支援員としての毎日

Linkキャリアサポートセンターに入職してから5年。今では生活支援員として、ご利用者様の体調管理や衛生管理、生活習慣の改善をテーマにした訓練プログラムの企画や運営を担当しています。この職場では、障害のある方が自立して生活、就職できるよう、食事レシピの考案や整理整頓、クラフト制作、発声練習、メモ取りなど、実生活からビジネスに直結するさまざまなスキルを学ぶことができます。
「週4日、ここで朝の通所受付から始まり、1日の流れの説明、個別の面談、そしてプログラム運営まで幅広く携わらせてもらっています。毎日があっという間です。でも、ご利用者様が少しずつできることを増やしていくのを見たり、“粟野さんに教えてもらったメモ取りが役に立ちましたよ“と言ってもらえたりすると本当にやりがいを感じます。」

強みを活かして発声練習のプログラムも担当
クラフト制作は自然に仕事の流れを学べる訓練に
個別面談を通してご利用者様をサポート

上司から見た粟野さんの強み〜葛藤を経て〜

粟野さんを採用した上司は、当初をこう振り返ります。
「以前の職場で指導員として長く活躍されていたので経験は十分ありましたが、企業の指導員と福祉の現場の支援員とでは目線に大きなギャップがあると感じられていたようです。最初はすごく気張っていらっしゃる印象でしたね。ですが、粟野さんには丁寧な話し方や落ち着いた佇まい、そして綺麗な声という強みがあります。その持ち味を活かして、安心してプログラムを任せられるようになりました。」
粟野さん自身も、この環境に大きな感謝を寄せています。
「この年齢になると注意してくれる人って少なくなってきます。でも、ここではきちんと指摘してもらえる。ありがたいし、この職場は本当に温かい。ここで働けること自体が奇跡だと思っています。」

PC入力はまだ少し苦手、と笑う粟野さん
池袋にあるLinkキャリアサポートセンター
画面を前に、プログラム運営の工夫を語る

仕事を通して見えてきたこと

支援員として働くようになってから、大きな気づきがあったといいます。
「指導員だった頃は、遅刻してきた職員に“どうして時間通りに来られないの?”と叱ることもありました。でも今は “来てくれてありがとう、頑張って来てくれたね”と声をかけられるようになりました。以前の自分が大切にしていたのは “責任感”。いまは“安心感”を届けられることが一番大切だと感じています」
福祉の現場で働くなかで、以前よりも人の気持ちを思いやり、他人のことを気にかけるようになったそうです。「すべてのことは自分に返ってくると考えるようになり、自分らしく生きることの大切さを実感しています」と語ります。

まだまだ挑戦できる!と話す粟野さん

これから挑戦する人へのメッセージ

粟野さんは、これから新しい挑戦を考える人にこう伝えます。
「大切なのは、これまでやってきたことと比べないこと。福祉の現場は、本来の自分を見つけられる、とても良い職業だと思います。シニア世代の皆さんも、まだまだ挑戦できるんだ!と声を大にして伝えたいですね」
年齢に関係なく、自分らしく働きながら誰かの成長に寄り添える福祉の仕事。粟野さんの経験は、挑戦を迷っている人に勇気を与えてくれます。

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